学齢期の吃音の問題とは

学齢期の吃音の問題とは  

吃音氷山

 
  • 私は、学齢期の吃音の問題を考える際には、吃音の問題を氷山にたとえたシーアン(1970)の考え方が有効ではないかと考えています。つまり、吃音の話し言葉の問題(繰り返し、引き伸ばし、ブロック、随伴などのいわゆる吃音症状)は氷山の上に浮かんでいる氷山全体から見るとごく小さい部分に過ぎず、その根底には氷山の大部分を占める海面下に沈んでいるより大きな問題が潜んでいるのではないかと考えられるのです。
 
  • 私は、学齢期の子どもの「吃音氷山」は、下図のような構造をしていると考えています。以下に、吃音氷山を構成している問題について説明します。
 
拡張版氷山モデル

拡張版氷山モデル(小林, 2014)

 

(a)話し言葉の問題(吃音の言語症状)

 
  • 話し言葉の問題(吃音の言語症状)には、大きく、(あ)核となる発話の問題、(い)周辺的な発話の問題、(う)随伴運動があります。
    • (あ)は、語の一部や語音の繰り返しや引き伸ばし、ブロックといった吃音がある人に特徴的に見られる発話の問題のことをいいます。
    • (い)は、単語全体や句の繰り返し、挿入、言い直しといった吃音がない人にもよく見られる発話の問題のことをいいます。
    • (う)は、唇が震える、顔を上下や左右に動かす、まばたきをする、貧乏揺すりのように足を動かすなど、発話時に唇や顔、喉、あるいは手足、体幹といった身体の一部に不自然な動きを伴うことをいいます。
 

(b)言語・認知・運動発達の問題

 
  • 吃音がある子どもの中には、言語・認知・運動発達に何らかの問題を示す子どもが比較的高頻度で見られることが知られています。吃音がある子どもが示す言語・認知・運動発達の問題には、(あ)吃音以外の言語・認知・運動の障害発達を併せ持つ場合、(い)言語・認知・運動発達が脆弱な場合の2つのパターンがあると考えられます。
    • (あ)は、構音障害や知的障害、言語発達遅滞、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの吃音以外の言語・認知・運動発達の障害と吃音を併せ持つ場合をいいます。
    • (い)は、(あ)のような言語・認知・運動発達の顕著な障害は見られないものの、これらの発達が脆弱(毎日の生活における諸活動を行うのに必要最低限の能力しかなく、ゆとりがない状態)な状態にある場合をいいます。(い)のタイプの子どもは、しばしば、お話しする際の表現が幼い、活動をするときに時間がかかったりミスが多かったりする、集中力が続かない、運動が不器用である、整理整頓が出来ない、活動状況にムラがあるなど、日々の生活を行う上で様々な困難や支障を示します。

(c)情緒・情動の問題

 
  • 吃音がある子どもの中には、情緒・情動に何らか問題を示す子どもが比較的高頻度で見られることが知られています。吃音がある子どもが示す情緒・情動の問題には、(あ)情緒・情動の障害を併せ持つ場合、(い)情緒・情動が脆弱な場合の2つのパターンがあると考えられます。
    • (あ)は、強迫性障害や選択性(場面)緘黙、チック障害などの吃音以外の情緒・情動の問題と吃音を併せ持つ場合をいいます。
    • (い)は(あ)のような情緒・情動の顕著な障害は見られないものの、これらが脆弱な状態にある場合をいいます。(い)のタイプの子どもは、しばしば、過敏性が高い、フラストレーション耐性が低い、自己感情の表出を過度に制御する、過度に消極的である、過度に用心深い、失敗に対する恐れが高い、自罰性があるなど、日々の生活を行う上で様々な困難や支障を示します。

(d)吃音への気づき、心理的問題

  • 吃音がある子どもの吃音の気づき、心理的問題には、(あ)発話への不全感や欲求不満、(い)吃音の話し方への気づき、(う)吃音への予期不安、(え)自信や自己肯定感の低下などがあります。
    • (あ)は、吃音の際に生じる身体の緊張や随伴運動のために発声発語器官を思い通りに動かないことに対して、焦りやいらだち、無力感などを感じることをいいます。
    • (い)は、吃音がある子どもが自身の発話の中に他の人とは違う、「吃音の話し方」が含まれていることに気づくことをいいます。これらの気づきを経験した子どもの多くは、吃音の話し方がある自分のことを「変な子」、「恥ずかしい子」など否定的に捉えるようになります。
    • (う)は、発話をする際に「上手く話せないのではないか」、「どもってしまうのではないか」という不安が生じることをいいます。吃音がある子どもの中には、「朝、先生に『おはようございます』と挨拶する時の『お』で絶対どもるな」など、吃音が出る言葉や場面を限定的・具体的に予期する子どもも珍しくありません。
    • (え)は、吃音のために自分の名前や簡単な言葉すら思うように話せない自分のことを劣った存在だと感じたり、苦手な言葉や場面を避けていることを「情けない」、「卑怯だ」と自己非難するなど、自身に対する自信や自己肯定感が低下したりすることをいいます。
 

(e)子どもを取り囲む環境の問題

 
  • 子どもを取り囲む環境の問題には、(あ)子どもの能力以上の高い要求、(い)子どもの吃音に対する反応、(う)社会の吃音への差別や偏見などがあります。
    • (あ)は、保護者や学級担任、他のクラスメイトなどの子どもを取り囲む周囲の人が、子どもの言語・認知・運動発達や情緒・情動の状況から想定される子どもの能力よりも高いレベルの要求を課している状況をいいます。
    • (い)は、子どもの吃音の話し方(特にブロックなどの話し始めまでに時間がかかるタイプの吃音症状)に対し、周囲の人が違和感や、困惑、いらだちなどを感じることをいいます。
    • (う)は、私たちの社会の中に、吃音の話し方や吃音がある人のことを否定的・差別的に捉える考え方が存在することをいいます。吃音のことを否定的・差別的に捉える考え方は、以前と比べるとかなり和らいできました。しかし、それでも、吃音のことを「みっともない」、「滑稽だ」などと否定的・差別的に捉える考え方は、今でも根強く残っているのが現状です。そして、このことは、吃音がある子どもがからかいなどの対象になりやすいことの一因となっていると考えられるのです。