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吃音とは

 吃音の言語面や心理面の問題の概略、吃音の発生と進展に関する理論、吃音を持つ人の指導・支援に対するニーズなど、吃音の指導・支援を行う上での基礎的な知識をまとめました。

1. はじめに

 国語辞典で「吃音」を引くと、「話しことばを発する時、第一音や途中の音が詰まったり、同じ音を何度も繰り返したり、音を引き伸ばしたりして、流暢に話すことが出来ない状態」(松村明編(1999)大辞林.第2版. 三省堂)とあります。このように、吃音を構成する第一の要因は、ことばがうまく出ず流暢(滑らか)に話が出来ない(くり返したり引き伸ばしたりして話す、ことばがつまって出てこない)ことにあります。しかし、吃音の問題は、単にことばが出てこないことだけではありません。ここでは、吃音の問題の実態について、吃音を持つ人がどの様な点で困っているのかという観点から述べていきたいと思います。

2. 吃音の言語症状

2.1. 吃音の言語症状の特徴

 吃音の言語症状には、大きくいって、語の一部や語音のくり返し(連発)(「わ、わ、わたし」)、語音の引き伸ばし(伸発)(「わーーーーたし」)、語音のつまり(ブロック・難発)(・・・(「つまってことばが出てこない)・・わたし」)の3種類があり、これらは吃音の核(core)になる症状と考えられています(Van Riper, 1971; Conture, 1990)。これらに共通しているのは、いずれも単語の一部分(特に語頭の語音)が言いにくくなるということです。ところで、「ぼく、ぼく、ぼくは」の様に単語の全体を繰り返したり、「それで、あの、だから、昨日の件だけど・・・」の様に言いたいことの前に不必要な語が挿入されたりする場合のような、一見吃音の言語症状ともとれそうな発話があります。吃音を持つ人は、これらを持つ傾向が多いことから、これらも、吃音の言語症状の一角を占めると考えられています(Conture, 1990, 日本音声言語医学会吃音検査法小委員会, 1981)。しかし、これらを持っているだけでは吃音があると判断しないことが一般的です(Conture, 1990)(表1)。幼児の吃音の評価・診断をする時は特にこのことに留意する必要があると思います。

  1. 核となる言語症状(吃音を持つ人に特有)
    • 単語の一部や語音のくり返し、語音の引き伸ばし、語音のつまり(ブロック)
  2. その他の言語症状(非吃音の人にも見られる)
  3. 単語や句のくり返し、挿入、言い直し等

2.2. 吃音の症状の進展

 吃音の言語症状は、徐々に進展していくことが知られています(Van Riper, 1971)。吃音の症状の進展については、個人差が非常に大きいため一概に言うことは出来ないのですが、ごく大ざっぱにいって語の一部や語音のくり返し→ 語音の引き伸ばし→語音のつまり(ブロック)の順番で進展していくことが知られています(Van Riper, 1971; Gregory, 1980)。

2.2.1. 幼児期

 多くの場合、吃音は、言語発達が盛んな3〜4歳位の時期に「ぼ、ぼく」とか、「わ、わ、わたし」などの語頭の軽い1〜2回程度の繰り返しから始まります。吃り始め(発吃といいます)は、「大体7月ごろ」とか、「幼稚園の運動会の練習をしている頃」など、はっきりとその時期を特定できない場合が多いようです。ただし、お子さんによっては、いきなり顔を真っ赤にして、強い緊張を伴うつまり(ブロック)で吃り始める場合もあります。また、幼児期の吃音の特徴としては、よい時期と悪い時期が交互におとずれる(吃音の症状の波状現象と呼びます)ことがあげられます。かなり言語症状がひどく苦しそうに話していても、しばらくたつと再び楽に話せる(もしくは全く吃らなくなる)ようになります。このよい時期と悪い時期を何回か繰り返しているうちに症状がなくなってしまう(自然に吃音が解消されるので「吃音の自然治癒」と呼ばれています)お子さんも多くいますが、よい時期と悪い時期をくり返しながら徐々に症状が進展していくお子さんも決して少なくはありません。そこで、この一時的な吃音の改善で安心せずに、長期的に経過を追っていく(フォローアップしていく)ことが必要になると思います。

2.2.2. 小学校期

 小学校期の吃音の症状は、お子さんによってかなりその様相が異なるのですが、ごくおおざっぱに、小学校低学年、中学年、高学年に分けて記述すると以下のようになります。まず小学校低学年ですが、幼児期の吃音の特徴である波状現象が残存し、よい時期にはほとんど吃音が出現しなくなることもあります。自分が吃っているという意識はほとんどなく、症状がある時でも平気で吃りながらお話をしています。小学校中学年になると、吃音の波状現象において、吃音がほとんど出なくなる時期が少なくなっていきます。また、自分が吃っていることを意識し始め、吃りそうになった時に、吃らないように工夫する様になります。例えば、「ぼ、ぼ、ぼく」と繰り返すことを避けるために、「ぼ」のところで力を入れたり、手や足で拍子をつけて話したりします。また、お子さんによっては、挙手をして発表することや教科書の音読などを避けるようになります。小学校高学年になると、吃音がほとんど出てこなくなる時期がほとんどなくなり、いつでも一貫して一定水準以上の吃音症状が出現するようになります。後述する予期不安が出現し始め、前述した吃ることを避けるための工夫が多くなります。その結果、手や足を動かしながら話したり(随伴運動と言います)、強い緊張を伴ったブロックが頻繁に生じるようになります。さらに、授業中の挙手や音読に強い恐怖を感じ、絶えずこれらを避けてしまうお子さんもいます。以上、学童期の吃音の症状の進展について述べてきましたが、最初に述べたように、この時期のお子さんの吃音の進展には個人差が非常に大きいのが現状です。私がこれまで経験した事例の中には、幼稚園の時点で上述の小学校高学年の特徴を示していたお子さんもおりましたし、逆に小学校高学年になっても、吃ることをあまり気にしないで、軽くくり返しながら吃っているお子さんもいます。以上にあげた時期はあくまでも目安として捉えていただければと思います。

2.2.3. 中学・高校期

 中学・高校期の吃音の症状は、小学校高学年期の状態がさらに進展した状態と考えられます(ただし、前述したように、個人差は大きいとは思いますが)。つまり、随伴運動や強い緊張をともったブロックが生じたり、発話場面を避けようとする傾向がますます強くなります。話すことが上手くできないことで、学業や部活動、友人関係などに支障が出てくることも少なくありません。例えば、吃音を持つ人の中には、うまく話せないので本当に入りたいクラブに入れず、しゃべることが少ない別のクラブに入ってしまったり、吃音が知れる事を恐れて友達と話すことを避けたりするなどの経験を持つ人が多くいます。多くの吃音を持つ人が、中高生の時期が人生で一番辛かったと答えていることからも、この時期の吃音の問題の深刻さが伺い知れます。

2.3. 予期不安(恐怖)の存在

 吃音の言語症状を考える際に無視できない重要な要因として、「予期不安」(もしくは「予期恐怖」)をあげることが出来ると思います。私たちが、吃音のセルフヘルプグループの言友会の会員を対象に行ったアンケート調査の「吃音のどのようなところに悩んだか」という質問において、一番多かったのは、「吃るのでないかという不安・恐怖」という回答でした。このことからも、予期不安が吃音を持つ人に与える問題の大きさが推察できると思います(2003b)。予期不安(恐怖)とは、吃音を持つ人が発話を始める前に感じている「吃るかもしれない」という不安や恐怖のことをさします。ここでいう、予期不安のある一面は、吃音があろうがなかろうが全ての人が日常生活において頻繁に経験している事だと思います。例えば、学校の全生徒の前で弁論大会の発表をする前とか、就職活動の面接の前とかには、多くの人が、「うまくいくだろうか」「心臓が飛び出そうだ」と不安や恐怖を抱くと思います。吃音を持つ人が予期不安の前に抱く気持ちは、多くの人がこれらの場面で感じる感情に近いのではないかと推察できます。ただし、吃音の予期不安と例にあげたような不安とでは、大きく異なる点もあります。それは、吃音の予期不安とは、「自分の名前がつまって出てこないかもしれない」、もしくは、「つまって全く話せそうにない」といった、現在の発話に直結した極めて限定的でかつ具体的な不安や恐怖だということです。吃音を持つ人の中には、頭の中で話しにくい言葉を話そうと考えただけで、喉や口に緊張が走るという人もいます。このように、予期不安とは、「どもる前に、既に吃ってしまっている」という吃音を持つ人の実感を的確に表現したものなのです。

2.4. 発話環境によって異なる言語症状

 吃音を持つ人は、いつも同じように吃っているわけではありません。例えば、多くの吃音を持つ人は、歌を歌う、独り言を言う、誰かと一緒に本を読む(斉読場面)では、吃らないで話せる場合がほとんどです。逆に、吃音を持つ人は、吃ってしまう可能性が高い特定の苦手な場面や語音を自覚している場合が多いようです(Van Riper, 1971)。吃音を持つ人が自覚している苦手な場面や語音としては、以下にあげるようなものがあります。

2.4.1. 苦手な場面

 吃音を持つ人は、いくつかの苦手とする場面を有している場合が多いようです。その背景には、過去にその場面でひどく吃ってしまったとか、吃ってからからかわれたり叱られたりしたなどの発話の失敗の経験がある場合が多いようです。個人差が多いので一概には言えないのですが、多くの人の前で発表する場面(学校等の挙手、音読、会社での全体スピーチなど)や、電話、先生や上司などの目上の人に話す場面を苦手とする人が多いようです。なお、授業中の発表等で、席順や名簿順などで発表されると、自分の話す場面が近づくにつれて恐怖が高まってしまうので、ランダムに当ててくれる方が楽だ、という人が多いようです。また、吃音を持つ人は、誰かと一緒に読む場面では吃る事が少ないので、誰かとペアで読ませるような課題とすることで発話の不安や恐怖が軽減されると考えられます。

2.4.2. 苦手な語音

 吃音を持つ人は、特定の苦手な語音や単語を有している場合が多いようです。例えば、「あ」行(母音)から始める音が出にくかったり、「えんぴつ」という単語を言う時にいつも吃ってしまったりするなどです。その背景には、前述したような過去の発話に関する失敗経験(「おはようございます」が言えなくて叱られた等)や、各語音の発声や構音の難易度の相違(発声や構音する際に吃りやすい語音とそうでない語音がある)(大橋, 1984)などが考えられております。多くの吃音を持つ人は、苦手な単語や語音を話さなくてはならない時は、別のことばに置き換えて話すことで乗り切ろうとします。例えば、「えんぴつ取って」というところを「書くもの取って」と言うなどです。しかし、これらの単語や語音が多い人の場合、多くのことばを置き換えないといけないので、結果として伝えたいことがうまく伝わらないということもあります。例えば、前述した「えんぴつ取って」の「えんぴつ」も「かくもの」も「とって」も苦手な場合だと、「えーと、メモ用紙の横の長いやつ、そう、それを、こっちに、・・・」など非常にまどろっこしい表現になってしまいます。また、「おはようございます」「ありがとうございました」等の挨拶に用いる単語、自分の名前や会社名、住所等の自身に関係した固有名詞など、日常的に頻発し、かつ他の語に言い換えることの難しい単語については、これらの置き換えも出来ないため非常に大きな困難を感じることになります。